「東京オリンピックは“開催ありき”の準備ではなく、国民の声に応えうる方針への再考を求める」声明を発表

2021年3月20日、IOCなどのオリンピック主催者が、「開催ありき」の発言やオリンピック精神とは相いれない対応をしていることなどに対して、新日本スポーツ連盟の石川正三会長・長井健治理事長が連名で「東京オリンピックは“開催ありき”の準備ではなく、国民の声に応えうる方針への再考を求める」声明を発表しました。(全文は以下を参照してください)


東京オリンピックは“開催ありき”の準備ではなく、国民の声に応えうる方針への再考を求める

2021年3月20日

                   新日本スポーツ連盟 会 長 石川 正三
理事長 長井 健治

 新日本スポーツ連盟は、2020年東京オリンピックを誰もが祝福できる平和と友好の祭典として開催できるよう、IOC、JOC、組織委員会、東京都に働きかけてきました。それは、他の世界大会などと違ったオリンピック・ムーブメントという基本理念の実現にあるからです。

 これまでオリンピックは、紛争など幾多の苦難を経験してきました。戦争、東西冷戦下での大会ボイコットの応酬、人種・民族・ジェンダー差別、ドーピング、買収など。そして今、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによってはじめての延期を経験し、延期した大会の開催自体が困難に直面しています。

 しかし、菅義偉首相は「人類がウイルスに打ち勝った証として、東京大会の開催を実現する決意だ」(2021年1月18日施政方針演説)と自分が主催者であるかのような発言をしており、また3月10~12日に開かれたIOCオンライン総会でトーマス・バッハ会長は、「7月23日に開会式が開かれるかどうかを疑う理由はない。問題は開催するかどうかではなく、どのように開催するかだ」と菅首相と口裏を合わせる発言をしています。

 また、2月3日のJOC臨時評議員会で、森喜朗前組織委員会会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「組織委員会の女性理事はわきまえておられる」などの女性蔑視発言をし、4日の記者会見で言葉では謝罪したものの、記者の質問に対して不快感をあらわにして謝罪の態度が認められるものではありませんでした。この森前会長の謝罪会見を受けてトーマス・バッハIOC会長は「この問題は決着した」と擁護し、幕引きを図ろうとしましたが、その後、選手や有識者、大会を支えるスポンサー企業などから批判や非難の声が上がりました。さらに、大会に欠かせないボランティアや聖火ランナーを辞退する人が相次ぐなど波紋は広がり、急遽IOCは2月9日に公式の声明で、「森会長の発言は完全に不適切なものだ」と一転して厳しいことばで非難するという混乱を示しました。

 以上のような「開催ありき」の発言やその対応は、まだ新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るっている中で、それへの具体的な対策を示すことなく行われたものであり、「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進」をめざすオリンピック精神とは相いれないばかりか、選手・コーチ陣、役員、ボランティア、医療関係者等の生命と安全を無視したものと言えます。

 また、世界各国での参加選手の選考にあたっても、ランキング決定大会の開催が延期されたり、代表選手選考大会が遅れているのが現状であり、こうした事態が公平・公正で選手第一の大会に疑問を抱かせるものになっています。

 コロナ感染防止に向けて日本でもワクチンの接種が始まっていますが、医療関係者15万人弱への1回目の接種が行われたにすぎず、今後の状況が見通せません。オリンピック・パラリンピック開催で必要とされる医療従事者は1万人程度と言われていますが、全国の病院での一般受診を制限してコロナ対応を行っている中で、それが可能であるのでしょうか、またそれが国民から支持されるのでしょうか。

 このような状況の中で今年1月、2月に行われた共同通信の「世論調査結果」では、開催すべきは14%で、再延長と中止すべきは80%を超えています。

 オリンピックの存在意義は、単なる世界大会ではなく“平和と友好の祭典”にあり、スポーツを通じての友情、連帯、フェアプレーの実践がそこに認められるからこそ、アスリートのパフォーマンスに“感動”が生まれ、人々の“生きる力”になりうるのです。

 私たちは、IOC、組織委員会、東京都が検討の内容について正確な情報公開をおこなうとともに、“東京オリンピック開催ありき”で準備を進めるのではなく、開催中止も含めた、国民各層の声に応えうるような討論と合意を目指すことを強く求めます。

                                   以 上