スポーツ科学研究所を設立~市民スポーツを科学する機関に
2014年11月8日、新日本スポーツ連盟付属スポーツ科学研究所が設立されました。東京都・アルカディア市ヶ谷で設立総会が開かれ、スポーツ研究に携わる人を中心に約70名が参加。研究所の目的を「『基本的人権としてのスポーツ』の実現に向けて研究を進めるとともに、一般市民のためのスポーツ科学とその体制の創造・発展に寄与する」とした規約、設立趣意書、事業計画、財政計画などを承認しました。また、所長に山崎健さん(新潟大学教授)、事務局長に青沼裕之さん(新日本スポーツ連盟副理事長)が選ばれました。
研究所は年2回、研究会を開く予定で、来年3月には競技力向上などをテーマにしたシンポジウムを開くことが報告されました。また、年1回「研究年報」を発行し、各論文、研究動向、スポーツ政策・運動情報、図書紹介などを掲載する予定です。山崎所長は、「これまで、メタボ対策などの健康促進のための研究やトップアスリートの研究機関はあったが、『市民スポーツの科学』を研究する分野はなかった。この研究所で、そういう内容に応えていきたい」と挨拶しました。
設立総会の後は「2020年東京オリンピック・パラリンピックが市民に残すものはなにか」をテーマにシンポジウムを開催。3名のシンポジストが発表し、フロアからの質疑応答を行いました。
経済学者の伊多波良雄教授(同志社大学)は、「過去の実績からみても、五輪が開催国に及ぼす長期的な経済効果はない」と指摘。「一方で、五輪があるというだけで楽しくなれるという目に見えない効果もある。幸せの尺度をはかる『幸福の経済学』というものがあるが、スポーツと幸福度の関係も研究されている。今後は、五輪の効果は目に見えないものもはかることが必要だ」と述べました。
社会学者の松林秀樹教授(関東学園大学)は、「長野五輪を検証すると、五輪が地元に与える影響は、プラスの要素もあるがマイナスの要素も多い」と、五輪後に長野県内での地域に格差が生じていることを示すデータを紹介。「五輪の効果を経済だけで判断するのは間違い。五輪の開催意義はどこにあるのかを再度考え直すべき」と報告しました。
障害者スポーツの指導者として、陸上競技の伴走者をしている塩家吹雪さん(陸上クラブAC・KITA(代表)は「日本の障害者スポーツは、指導者不足が深刻」と現場の状況を語り、「東京パラリンピック開催を機に、欧米に比べて20年遅れている障害者の環境を少しでも改善させてほしい」と訴えました。
その後、設立記念パーティーが行われ、一橋大学教授の尾崎正峰さんの友情出演(バイオリン演奏)で盛り上がりました。参加者は、情報交換をしながら交流を深めました。