海の楽しさ 人のやさしさを学ぶ―海の教室in館山

主催:新日本スポーツ連盟東京水泳協議会

キラキラ光る波間に、等間隔に列をつくって頭が並んでいます。

ときおり「エンヤコーラ」という掛け声をかけながら、ゆっくり「静々と」という感じで水面を移動していきます。若い人も高齢の人もいて、速い人も遅い人もいるはずですが、列を乱さず助け合いながら集団で泳いでいます。

これは「遠泳」という泳ぎで、伝統的な日本の集団泳で、列をつくって長距離を泳ぎます。古くは日本泳法の各派によって行われ、明治以降は学校体育の一部として、戦前は軍隊の泳法としても取り入れられてきました。

3日間かけて集団遠泳の基本をマスターします

日本固有の伝統文化、〝集団遠泳〟を新日本スポーツ連盟は継承し、広める活動をしています。毎年夏に開かれる東京水泳協議 会主催の『東京・海の教室』では、泳ぎに自信のある人から、初めて海で泳ぐという人まで、それぞれのレベルに合った指導を行っています。

実施場所は千葉県・館山市の北条海岸です。参加者は3日間、寝食を共にし絆を深め、海では皆が気持ちを合わせ、波間を静かに渡ります。

現代の長距離泳はオープンウォータースイムが主流で、オリンピック種目(2008年から10kmのマラソンスイム)にもなっています。海外ではドーバー海峡やロットネス海峡などの海峡横断が有名です。国内でも1000mから5000mまでの大会が各地で盛んに行われています。

オープンウォータースイムは速さを競う個人競技で、スピードがでるクロールで泳ぎます。速さが身上ですから、スタートと折り返し点など混み合うところでは、選手同士がぶつかり合いになることも。

遠泳=集団泳は、競争ではなく全員が長い距離を完泳するのが目的であり、平泳ぎでゆっくり泳ぎます。遠泳で泳ぐ姿を「静々と水面を移動する」と表現しましたが、高速でときにはバトルになるオープンウォーターとの違いは、「静」と「動」の違いとも言えます。また、個人によるスピードの争いに対して、互いに協力し、励ましあいながら全員が完泳する点にも違いがあります。

初めて海で泳ぐ人も泳ぎに自信のある人も

東京・海の教室は、3日間の練習で遠泳=集団泳をします。東京湾の先端に近い館山にある沖の島から北条海岸まで約4kmをみんなで完泳しようという行事です。と言っても全員とはいかないので、泳力によって、①初級班、②泳力向上班、③遠泳にこにこ班、④遠泳元気班の4班にわかれています。

2017年は、初級・向上班1人、にこにこ班9人、元気班10人でした。3日目の遠泳の目標は、にこにこ班は沖の島から鷹の島まで約2km、元気班は沖の島から北条海岸まで約4kmを泳ぐことです。

泳力チェックと個人技術の練習

1日目は、参加者一人一人の泳力や特徴を見て、足りない技術を補う個人技術の向上が中心になります。泳力チェックでは4種目(平泳ぎ、クロール、背泳ぎ、バタフライ)を泳いでみて、泳ぎ方や速さを見ます。顔上げ平泳ぎ、立ち泳ぎ、横泳ぎなども練習します。

スピード調整のために手だけで泳ぐスカーリングや、休むために大の字で浮く練習もあります。上手にできないところがあれば、それを補う練習をします。また遅い人・速い人、寒さに弱い人・強い人、立ち泳ぎで上下動なく浮いていられるか、他の人の様子を見て、助けたりできるか、など集団泳に必要な個々人の特徴も指導員は見ています。

相互協力・隊列の練習

2日目は、前日の個人技術の足りないところを補いつつ、新たに相互協力や集団泳の隊列の練習が中心になります。疲れてきた人を手助けする「引き押し」という技術があります。

疲れた人が、「息整えて」「ハイ伸びて」の声に応えて、蹴伸びの姿勢で海面に浮きます。手助けする人が、疲れた人の足の裏を押して、スーッと前に進めます。全員が一緒に方向転換する技術も学びます。進む方向を山から高いビルに変えると、全員が一斉に方向転換します。

並行移動というのもあります。進行方向にクラゲの集団を発見したとします。全員が同時に横へ並行移動して、危険を回避します。

これらの技術を学んだあとで、ミニ遠泳という当日よりは短い遠泳をします。前日の泳力チェックを踏まえて、誰が先頭か、最後尾は誰にするか、真ん中は誰、指導員はどこにつくかを予め決めておきます。ミニ遠泳は、沖に向かって10分、岸と並行に30分、岸へ向かって10分(この場合は合計50分)という風に泳ぎます。

この日は長い防波堤の先を超えて隣の海水浴場に泳ぎ着きました。途中でみんなの気持ちを合わせ、士気を高めるために、「エンヤコーラ」という掛け声をかけます。三輪明宏の「ヨイトマケの唄」に「母ちゃんのためなら、エンヤコーラ」とありますが、あのエンヤコーラをみんなで声を合わせて叫びながら泳ぎます。

遠泳に臨んだ最終日

最終日の3日目は、元気班は沖の島から北条海岸まで、にこにこ班は沖の島から鷹の島まで、伴走船をつけ、指導員が側泳しながら泳ぎます。その日の天候、風や気温・水温、潮の流れによって、泳ぐ時間は変わります。

早いときは2時間を切りますが、遅いときは3時間を超えて泳ぐこともあります。2017年は元気班が2時間58分、にこにこ班が2時間で全員が完泳しました。

集団泳を成功させるために、指導員が気を付けていることは、泳力や性格を考えて適切なバディ(助けあう二人組の仲間)をつくる、食事を一緒にして絆を固める、前夜に楽しい交流会をするなどです。この年の交流会は、歌あり、フォークダンスあり、「ポキポキ踊り」に「ゴキブリ音頭」と盛りだくさん、最後にアコーディオンの伴奏で「今日の日はさようなら」などを合唱しました。

教室をふりかえって 参加者の声

「みんなで泳ぐのが魅力で、25年前から参加しています。練習は週2回、40分間止まらずに泳いでいます」
「インターネットで調べて、参加したいなと思って三重県から来ました。海で長く泳ぐのが楽しい」
「みんなでチームになって泳ぐのが新鮮です。普段はできないので」
「ゴールしたときの達成感が最高。7回目の参加です」