 2009年3月号
1932年4月24日の日曜日の朝、イギリスのウォーカー400人が「歩く権利」を求めて立ち入ったその場所へ行ってきました。 文=吉越悦子(全国ウォーキング協議会)
2008年9月9日、「祝・全国ウォーキング協議会誕生」と名づけて8人で成田を出発しました。イギリス北西部の美しい湖水地方のウォークを終え、9月13日にはイギリス最大の国立公園ピーク・ディストリクトにあるキンダースコート丘を目指しました。この丘はスポーツ連盟の第1回ウォーキングスクールで、講師・平松紘先生が話した「歩く権利」が生まれたところなのです。
羊がいる広い牧草地を、家族連れや元気な若者に混じって私たちも丘を目指しました。やがて、ギネス色の川の流れに沿ってガレ場を登ると、台地が広がりヘンリー・ムーアの作品のような奇岩越しにふもとが見えました。素晴らしいキンダースコート丘の地を踏んで、「歩く権利」を主張して地主層と闘った人々の想いと団結が、すぐに理解できました。
フットパスはイギリスのウォーキングの醍醐味
標高911mのキンダースコート丘、奇岩越しにふもとが見え安らぎ を感じます
フットパス(Footpath)とは歩行者専用道路のことで車や自転車が入ってこない、安心してウォーキングを楽しめる道。サイクリングや乗馬も認められている道「ブライドルパス(Bridlepath)」などもあります。
最近、日本で「ところどころに足湯があるんですか?」なんて聞かれましたが、これらの道こそたとえ私有地であっても誰もが通行できる道なのです。全土で赤道4周ほどあるそうです。
湖水地方、ピーク・ディストリクト、コッツウォルズ、そしてロンドン市内を歩いてみて、フットパスがイギリス全土に張りめぐらされていることを肌で感しました。チョッと横道へ入るところにフットパスの標識があり「歩いてもいいですよ、歩く権利があるのですから遠慮なくどうぞ」と微笑んでいるように感じました。牧場で羊に挨拶すると、羊も馴れたものでじっとこちらを見つめてくれます。
ナショナル・トラストも盛んで、絵本ピーター・ラビットの作者ビアトリクス・ポターが過ごした村も、それはそれは美しい景色が残されていました。 フットパスは人々に癒しの場所、再・創造の場所を提供しています。
イギリスのウォーキングの歴史
フットパスのはじまり
昔から、みんなの歩く道がありました。羊を飼うようになりAさん、Bさん、Cさんは、羊が逃げないようにそれぞれに柵をしました。橋の下にも柵がみえますよね。私有地・柵の中を歩かなければ通行ができなくなりました。人々は昔から歩いていたんだと「歩く権利」を主張したのです。このフットパスは1951年に長距離フットパスとして初めて設定された「ペナンウェイ(415キロ)」でスコットランドまで続いています
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ウォーキング環境に恵まれ、雨の日でもウォーキングを楽しんでいるイギリス人ですが、他人の土地を利用することが認められるには長い歴史がありました。
産業革命のため農村部からマンチェスターなどに移った労働者の楽しみは週末にカントリーサイドをレクリエーション(再・創造)することでした。その場所が雷鳥の狩場であるとこじつけられ入山禁止にされてしまったのです。1932年に「歩く権利」を主張して事件が起き、その年に「歩く権利法」が制定されました。
平松先生の著書によると104条と15の細則という本格的法律「2000年カントリーサイド・歩く権利法」が制定されたこと、フットパスの地図の見直しが法律で10年ごとと決められ、フットパスの地図化には年間4億円ほどの予算があるとも書かれています。
イギリスでは「フットパス」や「歩く権利」が国家的テーマとして論議され、フットパスの標識、踏み段、ゲートなどの調査も行われています。
なぜイギリスはウォーキングの先進国?
インフォメーションセンターには有料・無料の沢山の地図があります
様々な団体や組織によって歩く文化が守られています。また法令によってもしっかり守られていて、歩くための環境づくりが国と国民全体ですすめられています。
インフォメーションセンターには信じられないほどたくさんの地図が並んでいました。地形図が盛り込まれたガイドブックもあります。また、日本でも東京赤坂にある「英国政府観光庁」で、さまざまな観光パンフレットや地図を手に入れることができました。このように地図の多さからも、歩いてもらって自然を守っていこうという考えがうかがえます。
私たちは地図とコンパスを頼りに朝食前にもウォーキングに出かけ、たくさんのゲートを越えながらフットパスを楽しみました。フットパスを歩くのが楽しみで寝てなんかいられません(決して歳のせいではありませんよ)。コースが整備されていて歩きやすいフットパスが町じゅうに張りめぐらされ、子どもも若者もそして老夫婦も、ごく当たり前にウォーキングをレクリエーションとして楽しんでいるイギリス。まさにウォーキング大国イギリスといえます。
日本がイギリスから学ぶべきもの
階段つきのゲートを越える。色々なゲートもフットパスの楽しみです 2008年3月に結成した全国ウォーキング協議会の規約では「『歩く権利』をだれもが持つ『スポーツをする権利』として普及発展させていきます」と謳われました。「歩く権利」の文言を規約にいれたのは、日本で初めてです。
私たちが日本でウォーキングする道は、車に接しないところはないと言えるぐらい危ない道が多いです。また開発が進み里山の風景はどんどん変わっています。
湖水地方、ワーズワースが住んでいた付近のフットパス。80歳を超えるお医者さん夫妻が「キンダースコートはここより良いところよ」と教えてくれた
我々ウォーカーは歩くことによって、安心して歩ける道の整備と環境づくりに声をあげることが大切です。また、スポーツ連盟も自然保護、歩く人を増やすことに力をいれていく必要があります。
キンダースコート丘で出会った若者たち2つのグループに「どこまで行くのですか」と訪ねてみると、答えは同じ! 「わからない!行けるところまで行きます!」と元気な返事。イギリスのウォーキングはこれなんだ! すごい!と関心しました。こんな心意気も学びたいところです。
パブとアフタヌーンティー
ウォークを終え、パブの前庭で乾杯する若者たち パブでは他のお客さんと交流しながらボリュームのあるフィッシュ&チップスとビールがやみつきになりました。
また、濃厚なミルク、ジンジャービスケツト、クリームをたっぷり塗ったスコーン、紅茶の美味しいこと。伝統的な朝食でブラックプディング(豚の血を固めたもの)も食べてみました。
イギリスへ再び
飛行機で13時間、遠いイギリスですが癒してくれる美しい田舎の景色とフットパスに惹かれます。機会があれば「ランプラーズ協会(英国最大のウォーキング団体)」を訪ねたり、イギリスのウォーキング文化にもっともっと溶け込んでみたいと思っています。
「スポーツのひろば」2009年3月号より
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