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文=山西哲郎(群馬大学保健体育講座教授)

1.新しい感覚を求めて走る
  「ひとはなぜ走るのか、なぜ走りたくなるのか」と走りながら、自分に問いかけ、他の人からもそう聞かれる。ただ、やせたいため、健康のために走るという目的のために走ることが多い。しかし、果たして私たちはそのためだけに走っているのだろうか。

  車を降りる、部屋を出る、そして、路上や公園、田の畦道、林の中を歩く。心地よい季節の風が私を包み、足元からは大地の音が響き、眼にはやさしく草木や花々が映る。   そして、ゆっくり走る。ゆっくりと、ゆっくりと体を揺すり走っているうちに、しだいに周りの風景のなかで自分を知っていく。やがて、「自分の筋肉に語りかけ」「目に入ってくる自然と語る」という時間になって、なんとなく体も心も新しくなっていく。そして、走りながらいろいろな感覚を取り戻していくのである。

「記録や順位を追って毎日走る」「1週間に70 走りこむ」と日々鍛えるランナー。しかし、しだいに単調で、魅力がなくなり、疲労感のなかで走っているようになる。そこでいつも走っているグラウンドや道路を離れ、公園や川沿いの道をゆっくり走ってみる。毎週、大会に行っていたのに、今週はそれをやめ、近くの里山の道を走ってみたくなり、しだいに、忘れていた 走ることの楽しさ が甦ってくるのだ。このように新しい感覚で走るのが、マラニックの始まり。

2.マラニックとは…遠足ラン


  マラニックとは、「マラソン」と「ピクニック」を結びつけた走り方。となれば、走る感覚は、ピクニック気分で楽しく、長い道のりをゆっくり走ったり、歩いたりする旅的方法であり、心は、まさに遠足気分。「日本でマラニックを始めたのは誰ですか」とよく聞かれるが、私の記憶では、1960年代から70年代にかけて、当時君原健二選手の指導をしていた高橋進さんが言い始めたと思う。試合のない休日、朝、ナップサックを背負った選手が九州の山に入り、夕方まで自然のなかで走り戯れていたという。それを聞いた私は、レースや激しいスピード練習の翌日、あるいは合宿の中日に、陸上競技場を離れて、学生や市民ランナーとともに豊かな自然に走路を求めてこのマラニックを試み始めたのである。

  「明日の練習は、今日のハードな練習の疲れをとるために、マラニックというロングランをや る。」「何時間やるのですか?」「9時に出発して、3時までの5時間。」「えっ、長いですね。ずっと走るのですか?」「いや、ロングランといっても歩き走りで、歩く走るを繰り返す。」「それでは、かえって疲れがたまり、逆効果ではないですか?」「まわりの景色を見ながら友達と話をし、ゆっくりと楽しむからそれほど疲れは感じない」?息切れをしないで、血液が足先まで酸素を十分に運びながら全身を使って動き続ける。それでむしろ、積極的に疲れを取るというアクティブ・レストトレーニング、そして、基礎的なスタミナつくりとなり、走ることもさらに好きになってくるのがねらいである。 トップ・アスリートも初心者も、子どもから中高年者まで、誰でも「楽しい練習でした」という感想が出てくるのが魅力あるマラニックである。

3.マラニックのいろいろ
対象別、目的別マラニック マラニックは、走力のレベル、季節、コース、体調などによって方法を変えていけば、もっと魅力あるものになっていく。そのいろいろな方法と成果をあげてみよう。

1 走歴別マラニック

(1)ビギナー向きマラニック
  走る楽しさは、ゆっくり走り続けること。それも、できるだけ長い時間、長い距離にわたって。しかし、最初からそうすることはできない。そこで、ナップサックやウエストバッグを身につけて、歩き中心で1?3時間から始めてみよう。山登りやハイキングも立派なマラニック。時間をかけて動き続けることこそ、ランナーの足と心を創っていくのだ。健康つくりをめざしている方にも最適。

(2)走歴2、3年のランナー向きマラニック
  次第にスタミナもつき、ハーフやフルを走りたいと思っている人ならばLSD(=Long Slow Distanceの略称。長い距離をゆっくり時間をかけて走るトレーニング法のこと)、2時間走をやる前に、まず、マラニックを2?4時間かけて、週1回やってみる。もしマラニックの後に痛みや強い疲労感があったとしても、翌日には回復することが目標で、その結果、痛みも疲労感もなく十分にやりとげられるようになる。その力が1?2時間走り続けるLSDをうまくこなすことになるのだ。

(3)ベテランランナー
  前に述べたように、特に記録や大会にこだわるランナーには、もう一度ゆっくり走る楽しさを取り戻すためにマラニックをおすすめしたい。あるいは、疲れた心身のためには旅する心でマラニックを。時間は2時間から数時間とし、走りを主体にして、30分に5分程度の歩きを入れる。

2 季節別マラニック

  四季のはっきりした日本は、それぞれの季節を楽しんで走ることができる。

(1)春のマラニック
  冬のレースに疲れていたり、これから走り始めようとするには、春のマラニックが最高。枯れた草木に芽がでる、花が咲く風景は新鮮さを感じることができ、元気が再生してくる。近くの里山や川沿いの道、砂浜とあちこちへ出かけて、走りにふさわしいコースを探そう。

(2)夏のマラニック
  夏は涼しさを求めて高原や山で、山登りマラニックやトレイル・マラニック。起伏の激しさと天候の激変に備えた服装や飲食を用意し、上り下りは歩き、平地はゆっくり走るスタイルで2?5時間、上りの疲れをとるために、時々平地を挟むことがコツである。   海のマラニックは、走と歩に水泳を加えることで、スケールが大きく楽しいものになっていく。海に沿って走り、時々水泳をいれて、また陸に上がり走る・歩くというトライアスロン式マラニック。とにかく、夏のマラニックはでっかい自然に戯れることが魅力なのだ。

(3)秋のマラニック
  最もランニングに適した季節だけに、スムーズにマラニックをすることができる。遠くの自然を探していくのも良いが、いつも過ごしている街路や街中をゆっくり走れば、小さな自然や、街の新しい発見をすることもできよう。あるいは、郊外に電車やバスで出かけ、帰りはマラニックというのもいい。   心地よい季節がスタミナをつけ、長く走る楽しさを教えてくれる。やがてたくましさと、フルマラソンを走るスタミナができてくる。毎週1回、2?5時間は楽しみたいものだ。

(4)冬のマラニック
  日本列島、北と南、日本海側と太平洋側では気候は対照的なだけに、マラニックの様相もずいぶん違ってくる。   暖かいところでは、冬の陽射しを浴びながら静かな風景のなかを走と歩の繰り返しを楽しむことができよう。寒く風が強ければ、風を避けながら林や森の中を、樹の「気」に包まれながら平地をゆっくり走。   雪国であれば、スノーシューやクロスカントリースキーで雪道を歩く、そして走る「雪のマラニック」もある。

3 交流マラニック

  ランニングは本来、一人で楽しむスポーツ。しかし、自然や風景と対話する、そして、仲間や行く先の人々と触れ合えば、さらにその魅力は増してくる。

(1)クラブ・マラニック
  ランニングクラブの仲間で、月に1度のマラニック。クラブのビギナーに合わせてのマラニックや、走能力別マラニックで仲間との交流とスタミナつくり。

(2)マチ、ムラ触れあいマラニック
  各地で行われるマラソン大会は記録や順位を目指しているだけに、コース沿いの人たちとゆっくり語り名所などを眺めている余裕はなし。マラニックにはその余裕があり、寂しくなった地方でもきっとにぎやかになってくる。

4 カルチャー・マラニック

  マラニックは時間がゆったりと流れ、風景もゆっくり変わってくるだけに、他の文化的な活動と結びついてくる。 ・俳句やスケッチをしながらのマラニック。 ・音楽マラニックは、休憩の時、歌や楽器を奏でることで疲労回復。 ・自然観察マラニック。 ・歴史マラニック。司馬遼太郎の「街道を行く」のごとく、歴史を訪ねて走る。

4.ハウツー・マラニック
マラニックのすすめ方と楽しみ方  マラニックは、歩きを入れながらゆっくりと長時間走り続けるのが目的だが、それを楽しむためのプログラムと方法が必要である。

1 始める前に準備すること

(1)ボディ・コンディションつくり
  長時間にわたって、全身で動き続けるだけに、体調を整えておかなくてはならない。継続には、エネルギー源としての脚筋のグリコーゲンの蓄えと、痛みやだるさといった疲労が少ないことが条件である。 対策としては、実施前2日間は走るトレーニングを、せいぜい30分程度にして疲れをとりながら、炭水化物中心の食事をしてグリコーゲンを蓄える。 

(2)コースの設定
  あらかじめコースを作り、どの程度の時間と距離なのか知っておく必要がある。ランニングとは、予想して、それを実現することに楽しさがあるのだ。
・ワンウェイコース…行きか帰りを、電車やバスとする。
・往復コース…行きも帰りも、同じコース。
・循環コース…ワンウェイだが、ぐるりと回ってスタート地点に戻ってくる。

(3)人数
・単独
・複数…仲間2〜3人で。
・10人以上…できるだけ自己ペースのために、走力、体調で4〜5名のグループに。

(4)服装・持参するもの
  季節にあわせて、特に、暑さ、寒さ対策が必要。
・ウエストバッグか、ナップサックで水分、軽食、タオル。もしワンウェイならば着替えも必要。

2 進め方

  マラニック完走のためには、走るスピード、歩きの入れかた、休憩や給水・給食のタイミングが課題。 ・スピードは、走力、実施時間や距離によって異なるが、5〜8分。
・歩きは、起伏や走力によっても異なるが、15〜20分走→5分歩、上りは歩、平地と下りは走に変える。
・休憩・給水・給食は1時間に5〜10分。数時間に及ぶなら、中間で軽食。
・ペースは、平均したスピードで、途中がんばりすぎず、常に余裕があること。
・回復法…休憩の時はストレッチ、川や池や海に足を入れてアイシング。温泉があれば「足湯」。
・いかに楽しみを探し、つくるか…スケッチや俳句、仲間と語る、出会った人たちと話す、名所や歴史を知るなど。

5.マラニック大会
 最近、トレーニングの一環としてのマラニックだけではなく、マラニックの趣旨を大切にした大会が行われている。ここでは私が関わっている大会を紹介したい。

1 隠岐の島 自然体験マラニック
  7月に、島根県隠岐で約15 の海岸+山道コースを、走り、歩き、時には水泳も入れ、隠岐の自然の美しさを堪能し、歴史も知る。グループで走り、互いにサポートをしながら進む。別に、5 の初心者、家族連れコースあり。歌手も参加、島の人たちとの交流も楽しい。

2 北海道仁木町 原風景マラニック
  7月、北海道の自然や原風景を満喫しながら歩き・走る。最初は障がい者を対象にしていたが、今では、共生できるように、参加者が互いにサポートやリーダー性を発揮する。林や森、川沿い、畑といった広き大地をゆっくり走る。途中、地元のサクランボやミニトマトを食べるのが元気回復のもと。

  このほか、車山高原、妙高高原、鳥取砂丘、六甲山、あるいは京都での歴史マラニック…など全国各地にあり。外国では、ニュージーランドのトレイルコースでのマラニックと、その土地の風土を生かすマラニックが多大にある。

大阪シティマラニック


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