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F1チーム(スーパーアグリ)を探る
2007年12月

鈴木 亜久里さん

中島悟に次ぐ2人目の日本人レギュラーF1ドライバー(1989年-1995年)。
1990年にはアジア人ドライバーとして初めて3位表彰台を獲得。スーパーアグリF1チームを立ち上げ2006年からF1世界選手権に参戦中

「スポーツのひろば」を手渡し、「私たちは四〇年以上活動している団体です」と自己紹介をすると、少し驚きの表情を見せた「スーパーアグリF1チーム(以下、スーパーアグリ)」の代表鈴木亜久里氏。昨年から参戦している若いF1チームをみずから立ち上げた鈴木氏に、その思いを聞いた。

自動車レースは数多くあるが、その中でF1のもっとも特徴的な部分は、基本的にチームが自チームのマシンを作らなければならないところにある。現代のF1のマシン作りは、巨大な研究施設やスーパーコンピュータを導入して行われるのが「普通」であり、自動車メーカーそのものが「チーム」として参戦することが多い。なぜなら、一チームあたりの年間予算は一〇〇億〜五〇〇億円にもなるため、その資金を捻出でき、それに見合う利益が見込めなければ、おいそれとF1に参戦できないからだ。
「スーパーアグリでは、風洞施設やスーパーコンピュータは導入しないんですか?」と意地悪な質問をしてみた。鈴木氏は「できるわけないじゃん! そんなこと全然考えてないよ!」と即答した。
スーパーアグリは、ホンダからエンジンの供給を中心としたバックアップを受けているが、基本的に、鈴木氏の「個人チーム」であり、数十億円、数百億円という施設をすぐに作ることはできない。
特に、チーム創設にあたって、他のチームを施設ごと買収するという方法をとらず、一からのチーム作りに挑戦したため、限られた時間と資金の中で、いろいろと思うようにいかないことが多い。「なぜ、他チームの買収などではなく、一からのチーム作りに挑戦したのか」の質問には、「だって、真っ白なところから自分のチームを作りたかったから」との答え。「自分が1995年にF1ドライバーを引退したときから、絶対に自分でチームを作って、またこの世界に戻ってこようって決めてたから躊躇なんかなかったよ」と明快ではあるが、イバラの道になることは最初から覚悟していたはずだ。
実際に、昨シーズン前にスーパーアグリのF1参戦が発表されてから、開幕戦までは3ヶ月ほどしかなかった。鈴木氏はF1ドライバー引退後F1参戦の夢に向けて、国内、海外でレースに参戦するチームを作ってきたが、この3ヶ月というあまりにも短い準備期間に、「開幕戦のスタートグリッドにマシンが用意できたら奇跡」と言われていたほどだ。結果的には、開幕戦で佐藤琢磨選手のマシンが完走し、このことだけでも周囲を驚かせた。昨年一年を振り返った感想を聞くと、「よくやったな、と思うよ」とのこと。
そして参戦2年目の今年は、第4戦スペイングランプリでチームとして初の8位入賞、第6戦カナダグランプリでは、昨年のチャンピオンであるフェルナンド・アロンソ選手を佐藤琢磨選手が抜いて6位入賞という快挙を成し遂げた。

みんなが同じ方向を向いて

しかし、その後、シーズンが進むにつれ、ビッグチームの開発スピードにはついて行けず、結果が出ていない。このことについては、「まあ、まわりの方が大きな期待を持ちすぎちゃうんだけど、そんなに簡単じゃないよね。他チームのトラブルとか、レースにはいろいろな要素があるから、そういう時に結果が出せる位置にいたのはすごいことだと思う。でも、速さだけでトップチームに勝てるのかっていうとそうではないし、まだ昨日生まれたばかりみたいなチームだからね。チームのみんなは、自分たちの力がよくわかっていて、一歩ずつ前進していかなきゃいけないのはよくわかってるよ。」
チーム作りについては、「僕がマシンをデザインできるわけじゃないから、僕の役割として、チームをこうしていきたいという方向を示して、みんながそれについてきてくれるかどうかだよね。これからも、風通しがよくて、みんなが同じ方向を向いてがんばっていけるチームにしていくことが大事だね。」
『大企業による宣伝のためのF1ビジネス』というイメージが色濃くなっている今のF1界で、純粋に「最高峰のレースがしたい」という想いがひしひしと伝わってくるスーパーアグリは、本来「普通」であってほしい、特別な存在になっている印象を受ける。
「自分のチームを立ち上げて運営することの喜びは?」と聞いたが、「喜びなんかないよ! 今はまだ進んでいる最中だから、どの段階で喜んだらいいかなんてわからないじゃない。今はとにかく突き進むしかない」とこれも即答。こうした姿が評価されるのであろう、海外のメディアでも、スーパーアグリがいい結果を出したときには大きく取り扱ってくれるそうだ。
背伸びをするのでも、無謀な挑戦をするのでもない。チーム一丸となって、今ある物をうまく生かしながら、一歩一歩前進していく。ダメなことをダメだと嘆くのではなく、「今、何ができるか」を追求する。その姿勢が世界を驚かせる結果に結びついたのだろう。


もっとも規模が小さいとは言っても、チームスタッフは約200人。
みんなの想いがこのマシンに注ぎ込まれている

佐藤 琢磨

スーパーアグリF1チーム
F1ドライバー

佐藤 琢磨さん

「前進のために学ぶ」ということ



最初に、新日本スポーツ連盟の自己紹介をさせてください。 私たちは、スポーツ界では大きい方ではないのですが、スポーツはプレイをする人が主人公だという信念を持って活動しています。実際には、時間も、人手も、お金も足りなくて歯がゆい思いをする時もありますが、それでも、少しでもいいものを作っていきたいと、みんなで力を合わせてがんばっています。

佐藤琢磨さん(以下、佐藤)なるほど、うちのチームと似てますね!

今年、チームがうまく力を発揮できたのはなぜでしょうか?

佐藤 僕たちは、昨年すごく小さなチームから始まりましたよね。
しかも、とにかく時間が限られていたので、本来F1のチームがやるべきである、プランニングをしてベストなものをピックアップするというプロセスがとれなかったんです。だから、妥協はしないけれども、「やれたらいいな」ではなくて「もうやるしかない」という状況の出発でしたね。
「一人二役、三役」でやらなければいけない状況の中、開幕戦のスタートグリッドにむけてのチーム作りを「戦った」ことで、チームのすべての人の絆がすごく強まりました。
そして、シーズンが始まってからも、まだまだ足りない部分とか、新しく学ばなければならない部分がたくさん出てきて、レースをやりながら、その一つ一つを素早く吸収することができたと思うんです。

時間がなくても、どういう方向に進もうか、どういうチームにしていこうかということを話し合う時間はあったのですか?

佐藤 もちろんありましたよ。自分たちで自分たちが進んでいく方向を考えながら、今ある物を修正したり減らしたりしていったのではなくて、自分たちで生み出していったんです。
例えてみれば、シーズン当初はチームの骨格の部分だけがあって、レースをしながら、筋肉をつけて基礎体力をどんどんつけていったという状況でした。今までのF1チームとはぜんぜん違うアプローチで、素早く、モチベーションも高く、持てる中で最大限のパフォーマンスを出すってことができたんじゃないかと思うんです。
ただ、マシンを作るというハードウェアの部分では、ホンダのサポートがすごく大きくて、それなしには僕らの存在はあり得なかったし、共同作業ができたというのは大きかったと思います。
ところが、ハードウェアはできても、レーシングチームとしてやっていくということについては、もう試行錯誤の連続でした。
それでも、それを何とかやり遂げたら、そこからは、「まずは完走しなければいけない」とか、「ライバルチームに追いつかなければいけない」とか、目標はシンプルになりましたね。だから、後は一つ一つ、毎戦毎戦、自分たちが前進していくために、どうやって学んでいくか、今あるものをどう効率的に使っていくかということをやってきただけなんで、作業としてもすごくシンプルでした。

「一人二役、三役」は簡単なことではないと思いますが?

佐藤 昨年はシーズンを戦う中で、一番近いライバルチームから1周で数秒も離されていたので、普通だったらかなりガックリすると思うんですけど、でも僕らは本当に希望に満ちあふれていましたね!
F1のチームとして戦えていることに喜びを持っていたし、小さな所ではあるけれども、純粋に、素直に喜べる気持ちを持ってレースをすることが出来ていたことが、本当によかったと思います。
自分たちが一つ一つステップアップするたびにすごく勇気づけられていたし、レースでは、最後尾なら最後尾なりに。僕もコース上ではとにかくベストなレースをするということだけが、チームにお返しできることでしたから。例えば、競り合ったら絶対に負けないとか、僕がアグレッシブに走るシーンに、チームは刺激を受けてくれたと思います。お互いの相乗効果でここまでやってきましたね。

2年目は冬のテストも精力的に行なって、今年はチーム初の8位入賞や、昨年のチャンピオンを抜いて6位入賞の快挙もありましたね。

佐藤 入賞については、レースの中で様々な条件が重なって起こるわけですし、僕らはいつもベストを尽くしていますから、特別なプレッシャーはありませんでした。
それに、チームが今までにないほどの最高潮のところに達しているかというと、そうではないですし…。

最高潮に達していない?

佐藤 達していないですね。なぜというと、シーズン当初は、今年のマシンであるSA07が、他のチームと比べて相対的に高いパフォーマンスを発揮していました。しかし、その後のマシンを向上させる開発スピードは、物理的に大きなチームにはかないません。
それでも、その中でいかにうまく効率的に自分たちのアドバンテージを、いや、アドバンテージはないな、ディスアドバンテージを少なくしていくかっていう作業がほとんどですから。この週末(9月の日本グランプリ)、実力でトップテンを狙っていくような位置にいれば、プレッシャーはあるにしても、気持ちは楽だと思うんですけれども、まあそんなに簡単ではないと思いますね。
ただ、(6位入賞の)カナダに行くときには、(開発が進められなかったので)あんないい結果になるなんて思ってもいなかったんです。それと同じことが日本グランプリの富士スピードウェイで起きる可能性もあるから、そういうレースになればいいなと思っています。

ライバルのトラブルなどいろいろな要素があって、そういうことが起きたときに、その一つ後ろにいたっていうことが大きいんじゃないですか?

佐藤 そうですよね。だから、チャンスは自分でつかみに行くものだと思うけど、ある程度のところまでレベルアップしていったら、そのチャンスをつかめるところに自分のポジションをおけるようにしていくことが大事だと思いますね。そういうチャンスは取りこぼしたくないし、「こういうふうにできたらよかった」って思わないようにしたいですね!

佐藤琢磨photo2



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